第八回 「文字を書こう」
今回からいよいよ第四段階の「書く」について書きたいと思います。「書く」と言う行為は語学学習の最終段階で、人類が文字を持ってコミュニケーションを始めたのも言語創成史の最終段階であることからしても、「書く」と言う行為がいかに難しいかが伺えると思います。
しかし、みなさんはすでに日本語が書けるようになっていて、幸い漢字にも慣れ親しんでいるので、中国語を学ぶ下地は出来上がっていると言っても良いでしょう。私が中国語を始めて長続きしているのも、漢字というファクターがある程度の位置を占めている気がします。
さて、前振りはこのぐらいにして、早速「書く」と言う行為について書いていきましょう。
「書く」というのは、端的に言えば「対象物に線を描く」行為です。縦線、横線、丸や点など、様々な線を紙などに描くことを「書く」と言います。子供は皆悪戯書きをしますね、あれは文字を書く練習の第一段階をおこなっているのです。良く悪戯書きを止めさせる親がいますが、そういう環境で育った子供は文字を書くのがあまり上手にはならないそうです。
話を戻しましょう、「書く」と言うことは「対象物に線を描く」ことですが、みなさんは日本語を書けるので、この第一段階はとうに終了していると思いますが、「書く」という行為の第一段階の悪戯書きを頭に留めておいてください。
さて、第二段階ではいよいよ文字です。「文字を書く」という行為は悪戯書きの延長線上にある行為です。悪戯書きの時縦線、横線、丸、点など様々な図形を描いたと思いますが、それを体系的に纏め、意味づけした物が文字なのです。日本語のひらがな・カタカナはいずれも表音文字で意味はあまりありませんが、発音を体系的に纏めた文字、漢字は表語文字で、文字そのものに音と意味がつけられ、体系的に纏められた物です。
日本人は小学校に入るとまず、表音文字のひらがな・カタカナ96文字と濁音、半濁音、促音便などの文字を学びます。中国人は小学校に入るとやはり表音文字のアルファベットを学びます。これは中国語の発音表記であるピンインがアルファベットで表記されるからです。昔は「ㄚㄣㄘ」(abc)のようなカタカナにも似た形の文字を使用していました。これは「注音文字」と言いますが、台湾などでは現在でもこの注音文字を使っているようです。
このように、それぞれの国の子供達はまず発音を表記できる文字から学んでいくのですが、みなさんはすでにひらがな、カタカナ、アルファベットの文字は書けると思いますので、この第二段階もこれで終わりです。
さて、一挙に第三段階まできました。第三段階は綴りです。日本語は基本1音1文字ですが、促音便などは2文字で綴ります。中国語のピンインは英語のスペルのように文字をいくつか並べて発音を表記するため、この綴りを覚える必要があります。例えば「中国」をピンインで表記すると「zhōng guó」となります。この綴りは中国語を学ぶ上で一番の基本となりますので、まずこの綴りを全部覚えてください。全部でおよそ400あまりあります。参考【ピンイン字母表】
そして、忘れていただきたくないのが、「書く」という行為は、「聞く、話す、読む」と言う行為の上に成り立ていると言うことです。つまり、「聞く、話す、読む」と言う行為が出来て初めて「書く」と言う行為が出来ると言うことです。例えばさっきの「中国」は聞いて理解できること。話せること。そして読めること。これが出来て初めて書くと言う行為が出来るようになるのです。
例えば、日本語の「ぼたんにからじし、たけにとら」と言う言葉があります。これを音で聞いて理解できますか?「ぼたん」を「釦」だと思った方は残念ですが違います。これは「豪華できらびやかな図柄を喩えて言う言葉」なので、「ぼたん」は「牡丹」になります。これが聞くと言うことと、意味が分かれば使える、話せると言うことになります。そして、「牡丹に唐獅子、竹に虎」と言う表記があれば、当然読めることになります。そして、書いてある文字を覚え、「ぼたんにからじし、たけにとら」と言うひらがな表記、「ボタンニカラジシ、タケニトラ」と言うカタカナ表記、「牡丹に唐獅子、竹に虎」と言う漢字仮名混じり表記すべてが書けるようになるわけです。
そう、文字を書くことは、聞けて、話せて、読めなければ出来ないと言うことです。外国語を学ぶときどうしても教科書からはいるので、「読む」から入りがちですが、「聞けなければ話せない」「話せなければ読めない」「読めなければ書けない」と言うことを頭に入れてください。これを理解すれば、第三段階の綴りは自然とクリアできるはずです。全部で400あまりのピンインが有りますが、これを覚えれば第三段階はクリアです。頑張ってください。
さて、いよいよ第四段階です。第四段階は表語文字である「漢字」です。この漢字は「一」や「十」の様な簡単な表記から画数が30画以上の難しい漢字まで、正確な数が分からず、無数と言って良いほど有ります。中国語では一般に辞書などに載っている漢字は5万から10万程度、日常で使用する漢字はそのうちの7千から1万程度だと言われています。過去の古文書などを読むのでなければ、1万文字程度の漢字を覚えれば通常の生活ではほぼ事足りると言うわけです。
しかし、日本人が知っている漢字は常用漢字で1945文字、人名用漢字が285文字で、僅か2230文字です。漢字が得意な人でも、これに旧字体や異体字などを含めた数千文字を覚えているだけです。日本漢字能力検定協会の漢字辞書には6300文字が収録されていますが、これを全部覚えている人は漢字検定1級以上の能力を有する辞書並みの知識だと言うことになるわけで、日本社会における日常生活では、ほぼ無用の知識です。
ところが、中国人が覚えなければいけない漢字の数はこの日本漢字能力検定協会の漢字辞書と同等かそれ以上の数なのです。中国の小学一年生が学ばなければならない漢字の数はなんと950文字で、日本人の小学生が6年間で学ぶ漢字が1006文字ですから、日本人が6年間で学ぶ量を1年間でやってしまうわけです。中国はいかに漢字が多いかがこんな事からも分かると思います。ちなみに中国の小学生が6年間で学ぶ漢字は3500文字有ります。なんと日本人の3倍以上を覚えるわけです。参考【中国語常用漢字一覧表】
こんな沢山の漢字覚えきれないよと、中国語を学びだしてもすぐに投げ出してしまう方も多いですが、ちょっと待ってください。日本語の漢字は音読み、訓読みがあり、さらに熟語や使われ方によって読み方を変えなければならないので、覚えるのに大変な労力を必要とします。
例えば「人」と言う字はたった2画の簡単な文字ですが、「ひと、じん、にん」の常用読みのほかに「きよ、さね、たみ、ひとし、ふと、め」などの人名用読みがあります。そのため「人質」「人生」「人間」で読み方を変えなければならないという、大変な作業を強いられるわけです。
ところが、中国語で「人」は「ren2」の読み方1つだけです。どんな熟語が出てこようと、すべて「ren2」と読みます。例えば先ほどの「人質」「人生」「人間」は「人质」「人生」「人间 (※人の世)」と書きますが、それぞれ「ren2zhi4」「ren2sheng1」「ren2jian1」と読み、すべて同じ読み方をしていることが分かると思います。これならば、漢字自体を覚えることに専念でき、使い方まで気を回さなくて済みそうです。
しかし、量が多いことに代わりはありません。では、どのように覚えていくかと言いますと、まず日本語の漢字をすべて中国語で読み書きできるようにするのです。日本人は幸い漢字には複数の読み方があると認識していますから、音読、訓読に加え中読(中国語の読み)を加えればいいのです。例えば「人」は「ひと、じん、にん、ren2」と読むと覚えてしまえば、これで一つクリアです。そうすれば、常用漢字1945文字はあっという間に覚えられると思います。
さあ、2000文字近くを覚えられたら、次は日本の漢字と中国語の漢字の違いを覚えなければなりません。先ほどの「人」と言う漢字は日本語も中国語も同じ漢字を使いますが、例えば「東」と言う字は「东」と書き、「骨」は「骨」と書きます。「東」と「东」は明らかに違いますが、「骨」と「骨」はどこが違うかというと、左図の赤丸に示したとおり、上の部分が日本語は右側に曲がり、中国語は左側に曲がっています。他にもいくつかありますので、それらをきちんと覚えてしまいましょう。
そして、ここからは日本語にない漢字を覚えていくことになります。部首毎に覚えたり、関連のある漢字を集めて覚えたり、漢字の成り立ちを知って覚えたりと様々な方法があると思いますが、中国語の文章をただ只管写すと言う方法も、漢字学習の効果的な学習法だと思います。以前見た 【小学語文】 を書き写すことから始めて、小説などの本を丸写ししても良いですし、毎日インターネットで配信されてくるニュースを書き写しても良いですし、とにかく見たこと有るという漢字を増やし、それを書くという作業を繰り返してください。数ヶ月もすれば中国語の漢字だらけの文章が苦もなく読めて、書けるようになっているはずです。沢山の漢字が書けるようになったら第四段階はクリアです。
今回は少し話が長くなってしまいましたが、理解できましたでしょうか。次回は「書く」の第五段階です。お楽しみに。
劉白雨 2010年02月21日
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